AI

2024.05.07 10:45

論文検索のポストGoogleか。事業開発を加速する「Memory AI」とは

大柏 真佑実

MEMORY LAB 代表取締役社長 CEO 畑瀬研斗

日本の大企業が注目するリサーチツールをご存知だろうか。3億件以上の研究論文から技術の相関性を瞬時に可視化できる「Memory AI」なるもので、2023年6月にプレベータ版をリリースすると、半年でキリンホールディングスや大正製薬など大手企業約20社が顧客になった。

注目される理由は、企業の研究開発や事業開発担当者が技術調査や分析にかかる工数を最大で9割削減できるからだ。日本は特許出願件数で2022年、28.9万件で世界3位。国・地域別のGDP(国内総生産)に占める研究開発費総額の割合が3.59%と高く、ここ20年間で世界最高レベルにある(※)。科学技術においてこれだけ充実した環境にありながら、大きな問題がある。研究開発の最初の工程となる調査や分析には短くて半年、長いと1年半もの時間が必要になる。この非効率性に着眼したのが、当時、ニューヨーク州立大学の学生だった畑瀬研斗が設立したMEMORY LABという企業だ。

研究者として直面した現実。目の前の大切な人々を救いたい

畑瀬がMemory AIをローンチした背景には、研究者として覚えた痛みがある。畑瀬は高校時代にアルツハイマー病患者の増加が社会問題になっていることを知り、強い課題感を覚えたことをきっかけに、記憶の定着や喪失について最先端の環境で学びたいと思うようになり、卒業後に渡米。ニューヨーク州立大学オルバニー校で脳神経科学を専攻し、そこでアルツハイマー病の研究に従事する。

「研究でアルツハイマー病の患者さんと仲良くなるのですが、彼らは愛する人の記憶も日に日になくしていきます。でも研究者としてすぐ治療のためにできることはほとんどなく、辛い日々でした。研究者が生み出した成果をできるだけ早く社会に実装し、目の前にいる大切な人たちを救う仕組みを作りたいと思いました」

一方で畑瀬は学生時代、テクノロジースタートアップの創業を支援するリバネスや、インパクトVCファンドを運営するリアルテックホールディングスでのインターンシップを経験。ここで企業が事業開発に手間取り、研究シーズを事業へ生かしきれていない現実を目の当たりにした。畑瀬は大学在学中の2021年7月にMEMORY LABを設立。帰国後、理化学研究所を経て慶應義塾大学の研究員として働きながら、2023年6月にMemory AIのプレベータ版をリリースした。

業界初、研究エコシステムを俯瞰できるマップ

事業開発の調査を長引かせているもの、それは膨大な情報量だ。同工程では先行研究に関する調査が必要になる。しかし一年で発表される科学系の論文は、世界で205万本。企業の担当者は各領域の研究テーマや事業展開の可能性を調べるために、論文検索エンジンにテキストベースで表示される膨大な検索結果から、論文の抄録や詳細を一つひとつ確認していく必要がある。

また、近年では異分野の企業が連携し、事業を共創する動きが活発化している。企業の担当者は自社にはない技術領域について調べ、理解することを求められるが、専門性の壁がある。

Memory AIでは任意のキーワードを打ち込むと、自然言語処理を用いた独自のアルゴリズムで3億件超の研究論文から各領域の研究テーマを構造化し、要約する。中でも研究テーマをその論文数によって大きさが変化するノード(丸)を用いた俯瞰図で可視化できる機能は、業界初だという。さらに、同サービスでは研究者のリストや技術トレンドなども表示。企業の担当者は、自社の専門分野ではなくても各領域の研究エコシステムを把握でき、どのような事業展開の可能性があるかなど、ポイントを掴みやすくなっている。
研究テーマの俯瞰マップ

研究テーマの俯瞰マップ

論文検索エンジンの領域には、Google Scholarを始め数々の競合が存在する。なぜ大手も実現できていない機能を、同社は形にできたのか。
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文=大柏 真佑実

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